年次大会案内Annual Convention Guide

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年次大会案内

JCA年次大会参加レポート

2025.07.04

是澤 克哉(広島経済大学)

 日本コミュニケーション学会の第54回年次大会は、2025年6月7日(土)、8日(日)の両日に広島修道大学で開催された。今大会のテーマは「忘却に抗うコミュニケーション」と題され、戦後80年の節目にふさわしい内容のパネルや発表が数多く見られた。私は昨年度まで同大学に勤めていた関係で、名ばかりの実行委員という立場で参加させていただいた。

 基調講演の「ヒロシマを表現する」とそれに連動する関連企画セッション「記憶継承のための技術(アート)と倫理」は今大会の主旋律であり、教育哲学を専門とする山名淳先生(東京大学)は、集合的記憶と想起文化の観点から、カタストロフィの記憶を伝承することの意義と課題について理論的な考察を深めており、今回の基調講演にふさわしい研究者であった。

 講演では「原爆ドーム=産業奨励館」をめぐる膨大な表象の中から、佐々木雄一郎氏、福井芳郎氏、丸木位里氏、四國五郎氏などが残した写真、絵画、テキストを眺めつつ、彼らが抱える苦悩や苦渋について紹介された。写真や絵画からは、暴力と美の描写が共存する芸術(アート)と倫理の問題を提示し、悲惨な場の象徴として語られることの多い原爆ドームに、さまざまな「想像する余白」を与えてくれたように思う。私も過去に被爆者との対話の中で、「原爆ドームは、昔は子どもたちの心が躍るような場所であった。今は無残な姿のみを曝し、可哀そうだ」といった声を聴いたことがある。佐々木氏の「『原爆の子』のロケ風景」(1952)にみられた、子どもたちが産業奨励館のレンガの壁の上に登って遊ぶ写真は、「原爆ドーム」と呼ばれる以前の子どもたちの寄る辺としての産業奨励館の姿ではなかったか。山名先生が講演で残された数々の問いは、悲惨な場以外の「原爆ドーム」の顔を再び浮かび上がらせた。また、調査された資料が膨大かつ多岐にわたり、厳選された資料や一枚一枚丁寧に作りこまれたスライドは、大会参加者にさまざまな角度からの「ヒロシマ」像を想起させたに違いない素晴らしい講演であった。

 続く翌日の連動企画セッション「記憶継承のための技術(アート)と倫理」では、記憶の継承の具体的な実践をめぐって活発な議論が行われた。基町高校の「原爆の絵」プロジェクトと「古写真VR」や「戦災R」プロジェクトの接点が明らかになり、久島先生(東京大学大学院)の発表を通じて、失われていく記憶に「協働的<翻訳>」というコミュニケーションの形態で抗っていくことに大いに魅力と可能性を感じることができた。基調講演からの流れを汲んだセッションは、戦後80年における記憶継承の現在地について討議するというタイトルに違わず、刺激的な内容であった。

 その他の発表では、小西卓三先生(昭和女子大学)の「ワンナイト人狼と無効可能な推論・議論」が興味深く、遊びの中から議論教育を展開し、論ずる行為の持つ可能性を広げていこうという意欲的な発表であった。「正しさ」を求める議論に、人狼ゲームにある無効可能性(defeasibility)が与える役割は、議論教育の幅を大いに広げるのではないだろうか。また、パネルに小西先生のご家族も参加され、「まなび」と「あそび」が一体となったアットホームな雰囲気を作り出していたことも強く印象に残った。

 他にもここに紹介したい発表やパネルは多くあったが、ともあれ、上記のような充実したプログラムに恵まれた第54回年次大会は、盛況のうちに幕を閉じた。末筆ながら、今大会を開催された実行委員長の谷口直隆先生、私を実行委員に加えていただいた学術局長の松本先生、年次大会担当の谷島先生、運営委員の皆様、および広島修道大学の学生スタッフの皆様に心より感謝申し上げたい。

2025.07.04

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【The recent convention programs:】

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